日本臨床医学リスクマネジメント学会 Japan Society of Risk Management for Clinical Medicine

平成30年度医療安全セミナー(医療安全管理者養成研修)

 

〇参加者アンケート

 

 

 

〇ご感想(ご参加くださった方の御寄稿)

慈泉会 相澤病院 救命救急センター長 吉池昭一先生 より

 

『日本臨床医学リスクマネジメント学会・医療安全管理者養成研修に参加して』

 

 この度、日本臨床医学リスクマネジメント学会主催の医療安全管理者養成研修に参加しその際の雑感を述べさせていただきます。

 

 私が医療安全にかかわることになりました背景には、部門を任せられる年齢になったこともあります。また、直近では当院理事長である相澤孝夫先生が日本病院会会長となられ、今後の医師に必要となる資質や医師の在り方そのものに関して「包括的に患者の病態に対応する能力はもちろん、地域医療を束ねるリーダーシップや行政等との調整をはかるマネジメント能力が求められるだろう。10~12年程度臨床経験を積み、その大変さや素晴らしさを十分に理解し、患者さんの悩みや苦しみに寄り添える医師こそ必要とされる」とおっしゃっていたことも影響しております。日本の医療の現状では、地域密着型の病院総合医の育成制度が開始となり、その柱の一つに医療安全に関する素養が必要であると義務付けられていることも今回の医療安全セミナーの参加に関し私の背中を押しました。

 私事ではありますが、十数年前にも医療安全に関わるきっかけはありました。私は平成9年、当時有賀徹教授(現労働者健康安全機構 理事長)のもと、昭和大学医学部救急医学教室に入局しました。3年後有賀教授に「吉池、これから医療裁判を見学してこい」と言われ、確か東京地方裁判所で、妊婦死亡例を傍聴させていただきました。当時を振り返ると自分自身は医師としてまだ未熟で有り、医療のあり方に暗中模索ではありましたが、そこで展開されていた法廷での専門家鑑定人の証言や検察・弁護人の質疑応答の内容に、“普段の救命センターのカンファレンスであったら、つっこみどころ満載だな”と感じた記憶があります。専門性からかけ離れた内容の応酬に、頭を傾げたくなるような違和感の様を有賀教授に述べさせていただいたのを覚えております。今思えば、ちょうどそのころが医療安全元年にあたる頃だと思います。

 

 その頃より数十年経ち、医療現場の様相は大きく変化しました。すべての医療従事者は医療安全実務者でなければならない現場となっております。医療安全講習会を受講するにあたり、医療安全管理実務者標準テキストに目を通しますと、その多様性と奥の深さに圧倒されます。チーム医療の概念、倫理学、医療法、災害などの危機管理など、はたまた法学、工学、経営学等と様々な分野が絡み合って各項目に出てきます。その様な状況ですから慣れない用語や理解を深めたい項目では、なるべく孫引きしながら理解に努めました。当院での実臨床で起こった実際の医療事故例を思い浮かべながら、“この場合はこのように対処するのか”“この方法はこういう意味か。いったいどのように使うのか?”など理解が進んだり、新たな疑問が湧いてきたりしました。そのように“うん、うん”と悩みながら研修会に参加し、講師のちょっとした一言にパッと視界が広がり、または疑問が解決できなければ、フロアにいる講師陣に直接質問し、理解したりしておりました(雰囲気は明るく聞きやすいでした)。蛇足ですが、今後研修会に参加予定の方々にはさらっと、でよろしいですから受講前に臨床医学リスクマネジメント学会作成のテキスト(医療安全管理実務者標準テキスト へるす出版)の一読をお勧めします。様々な分野が不断に登場するテキストです。いったいどこから手を付けたらいいのかと一瞬悩みますが、編集委員長の櫻井先生のご配慮により、ナビゲーションシステムが付随しており読みやすくなっており、全体を俯瞰するのに最適です。レジリエンスなどという概念は通常臨床では使用しませんのでここでしか学べないと考えます。

 実臨床に即しているといいますか、決して机上の安全管理ではなく、講師陣それぞれの病院での、“うまくいかなかった”安全管理を惜しみなくご提供され、その経験から得られた改善方法を教えていただけます。決して“王道の近道”のみの講義ではありませんでしたので、研修会終了⇒即実践の気概を感じられます。中でも「演習」は非常に勉強になります。研修会では計4回行いましたが、どれも実践的な演習であり、KYT(駒木根先生の御講義はvoltageが一機に上がりますよ)やFMEAなどは当院でも行っていますが、自部署内にて医師なども含めた多職種の医療安全チームとしての活動の定着はまだまだ弱く、補強が必要と実感しました。また標準テキストにはない心理的な行動分析であるImSAFERの理論は一見、理解が難しそうですが、講義後に演習を受け、フロアの講師陣もサポートしていただけるので、いつしか、体で覚えるようになっており、やはりここでも即実践の意欲が湧いてきます。なぜなら、心理学など形而学な分野は、精神医学、倫理学などもそうでしょうけど、“目に見えない”もので、近寄りがたいものがありましたが、講義においてアプローチの方法を学ぶと、“この心理において、この行動が引き起こされるのか”と感慨し、面白いからです。苦手なものを理解すると面白いですよね。

 

 以上、まとめますと

  1.  医療は単純ではなく“複雑”です。それを扱う安全分野はいきなり理解できません。まずは用語などの理解は必要であり、その先にあるのが、“ネットワーク”にて安全を担保です。ですので、パッと全体を俯瞰するために受講前にテキストのさらっとした一読は必要と思います。
  2.  私の感じた臨床リスクマネジメント学会の医療安全講習会の気概ですが、“実臨床に即した”です。ですので「演習」はためになります。
  3.  苦手なものを理解すると楽しいです。

 

 事故に学び、「安全」を育てることの重要性をより強く感じ、やはりすべての医療者従事者は医療安全実務者でなければならず、特にチーム医療のリーダーたる医師は習得すべき知識であろうかと思います。ですので、専門医修練過程などに必須研修として組み込まれるべき課題であろうとも思いました。

 

 以上、医療安全セミナーに参加しての感想を述べさせていただきました。最後になりましたが貴学会が益々、御発展し、医療事故が未然に防がれ、患者様が安心・安全・信頼をおける医療現場が広がっていくことを心よりお祈り申し上げます。

 

*本文中のイメージ(平成30年度開催の実風景および医療安全管理実務者標準テキスト)は当学会が挿入いたしました。

日本臨床医学リスクマネジメント学会 Japan Society of Risk Management for Clinical Medicine

 私が医療安全にかかわることになりました背景には、部門を任せられる年齢になったこともあります。また、直近では当院理事長である相澤孝夫先生が日本病院会会長となられ、今後の医師に必要となる資質や医師の在り方そのものに関して「包括的に患者の病態に対応する能力はもちろん、地域医療を束ねるリーダーシップや行政等との調整をはかるマネジメント能力が求められるだろう。10~12年程度臨床経験を積み、その大変さや素晴らしさを十分に理解し、患者さんの悩みや苦しみに寄り添える医師こそ必要とされる」とおっしゃっていたことも影響しております。日本の医療の現状では、地域密着型の病院総合医の育成制度が開始となり、その柱の一つに医療安全に関する素養が必要であると義務付けられていることも今回の医療安全セミナーの参加に関し私の背中を押しました。

 その頃より数十年経ち、医療現場の様相は大きく変化しました。すべての医療従事者は医療安全実務者でなければならない現場となっております。医療安全講習会を受講するにあたり、医療安全管理実務者標準テキストに目を通しますと、その多様性と奥の深さに圧倒されます。チーム医療の概念、倫理学、医療法、災害などの危機管理など、はたまた法学、工学、経営学等と様々な分野が絡み合って各項目に出てきます。その様な状況ですから慣れない用語や理解を深めたい項目では、なるべく孫引きしながら理解に努めました。当院での実臨床で起こった実際の医療事故例を思い浮かべながら、“この場合はこのように対処するのか”“この方法はこういう意味か。いったいどのように使うのか?”など理解が進んだり、新たな疑問が湧いてきたりしました。そのように“うん、うん”と悩みながら研修会に参加し、講師のちょっとした一言にパッと視界が広がり、または疑問が解決できなければ、フロアにいる講師陣に直接質問し、理解したりしておりました(雰囲気は明るく聞きやすいでした)。蛇足ですが、今後研修会に参加予定の方々にはさらっと、でよろしいですから受講前に臨床医学リスクマネジメント学会作成のテキスト(医療安全管理実務者標準テキスト へるす出版)の一読をお勧めします。様々な分野が不断に登場するテキストです。いったいどこから手を付けたらいいのかと一瞬悩みますが、編集委員長の櫻井先生のご配慮により、ナビゲーションシステムが付随しており読みやすくなっており、全体を俯瞰するのに最適です。レジリエンスなどという概念は通常臨床では使用しませんのでここでしか学べないと考えます。

 実臨床に即しているといいますか、決して机上の安全管理ではなく、講師陣それぞれの病院での、“うまくいかなかった”安全管理を惜しみなくご提供され、その経験から得られた改善方法を教えていただけます。決して“王道の近道”のみの講義ではありませんでしたので、研修会終了⇒即実践の気概を感じられます。中でも「演習」は非常に勉強になります。研修会では計4回行いましたが、どれも実践的な演習であり、KYT(駒木根先生の御講義はvoltageが一機に上がりますよ)やFMEAなどは当院でも行っていますが、自部署内にて医師なども含めた多職種の医療安全チームとしての活動の定着はまだまだ弱く、補強が必要と実感しました。また標準テキストにはない心理的な行動分析であるImSAFERの理論は一見、理解が難しそうですが、講義後に演習を受け、フロアの講師陣もサポートしていただけるので、いつしか、体で覚えるようになっており、やはりここでも即実践の意欲が湧いてきます。なぜなら、心理学など形而学な分野は、精神医学、倫理学などもそうでしょうけど、“目に見えない”もので、近寄りがたいものがありましたが、講義においてアプローチの方法を学ぶと、“この心理において、この行動が引き起こされるのか”と感慨し、面白いからです。苦手なものを理解すると面白いですよね。

日本臨床医学リスクマネジメント学会 Japan Society of Risk Management for Clinical Medicine